妥協することなくカレーを追究して行く 〜「咖喱人(カリービト)」安川知廣さんインタビュー〜

2015年に飯田橋で、咖喱人(カリービト)をオープンした店主安川知廣さん。その後スパイスカレーのブームと並走するように人気を集め、食べログ百名店に選出。新世代カレーブームの震源地といっても過言ではない。飲食経験ゼロでスタートしたにもかかわらず、なぜ人気店として育て上げられたのか。店主の安川さんに、カレーとお店に対するこだわりについて伺いました。

サラリーマン時代のカレーとの運命の出会い

カレーとの出会いはどんな形だったのですか。

元はサラリーマンでした。アメリカ製の調理器具の営業をしていたんです。カレーに興味を持ったのは、カレー研究家で出張料理ユニット「東京カリ〜番長」をやっている、水野仁輔さんの影響です。仕事の得意先の関係者でしたので、水野さんが登壇するイベントに行ってみたんです。そこで出会ったカレーに衝撃を受けました。自分が抱いていたカレーの概念とはまったく違っていて。驚きました。

それから食べ歩きを始めました。営業で外に出るときは、ランチはずっとカレーを食べ続けましたし、とにかくカレーの事ばかり考えていました(笑)

当時はまだ情報が乏しくて。カレー分野ではInstagramもまだ流行っていませんでしたし、今の様にまとめサイトやカレー店の専門誌もなかった。それで手当たり次第にカレーを食べに行きました。

いろんなお店に行っているうちに、カレー店は自分の中でいくつかに分類出来る事に気づいたんです。いわゆる「インネパ系」と言われるナンを中心に食べるカレー店、インド人がやっているインド料理専門店、スリランカカレー店、タイやマレーシアなどのアジア地域のお店で出すカレー、そして日本人が独自の解釈で作るカレー店(今で言うスパイスカレー店)etc。

もちろんみんな美味しかったのですが、食べ歩きの後半戦になると、自分の中ではインド料理専門店とスパイスカレー店に興味が集中してきました。それで「ここだっ」というお店をリピートする様になっていきました。
それでも新店には必ず行ってましたけど。

カレーに挑戦

たくさんの種類のカレーに挑戦したんですね。

自分の性格上、調べたり食べたりしていると作りたくなるんですね。そして作ったものを誰かに評価してもらいたくなる。そんな時「東京カリ〜番長」のメンバーが主催するカレーのイベントに声をかけてもらい、趣味でカレーを出すようになって。いろんなカレーに挑戦しました。

もともと飲食には興味はありました。調理器具のメーカーの営業だったので、業務用の機械を扱ったり、フードコーディネーターさんと仕事をする機会も多かったんです。

仕事は充実していました。役職も付き、部下もいて、いい客先を開拓して、桁が違う成績も出せるようになった時期でした。ただこの時期会社環境が大きく変わり、サラリーマンとしての生活に疑問を持つようになり、ちょうど会社を辞めようかと思うタイミングが来て、「これを機会に店をやるか」という気持ちになって。カレーなら長い修行をしなくても店が出せる。そう思いやってみようと思いました。

オープンから2年の挫折

お店を出すまではいかがでしたか。

まず、どこに店を出すかを考えました。ずっと会社員だったので、その経験を活かしオフィス街のランチメインのカレー店、という条件で物件を探しました。
サラリーマンは12時から13時の休憩間に食事をします(今は少し変わってきてはいますが)どんなパターンで店が回っているかも経験上だいたい分かっていたので日常のルーティンに自分の店を入れてもらうことを中心に考えました。

お店探しには割と苦労しましたね。立地、坪数、家賃、通勤時間。なかなか条件に合う物件が出てこない。 立地がよかったらカレー店はNGだったり、家賃が高すぎたり、契約の途中で急に断られたり、物件見に行ったら真隣が超有名な老舗カレー店だった事もありました(笑)
かなりの数を探してやっと今の場所にたどり着きました。

「食べログ百名店」に選ばれました。何が決め手だったでしょう。

正直「これ」という一つの理由はないと思います。
ただ、食べていただく方に元気になってもらいたいといつも思っています。
お店は常連のお客さんが多いのですが、その6〜7割は近隣の会社員の方々です。それ以外には、口コミやsnsなんかをみて来て頂いた方ですね。常連さんに気に入って頂くことが一番大事だと思います。

常連のお客さんをつなぎとめるためにどんな工夫をしていますか。

そのためにやっているわけではありませんが、まず絶対に妥協しないこと。お店を始めると、自分が他の店になかなか行けなくなります。インプットできる情報が少なくなっていく。インターネットで、画面で得る情報ばかり多くなってしまいます。

メニューは毎日決まってますよね。そうすると繰り返し作業でロボットのようになってしまう。スキルアップの余地もなくなってくる。頭が固くなってしまう。そうならないように、いかに工夫するかだと思います。

店の味は進化しています。いい方向にどんどん変えるよう心がけています。限定カレーを週一で変えて、4年間、毎週違うカレーを作ることにしているのもそのひとつです。
もちろんお客さんに喜んでもらう事が一番ですが、そのために自分のスキルを上げ続けることはとても大事だと思っています。

どんなインプットをしていますか?

まず自分の中のイメージです。複数の食材を頭の中でイメージして考えて、それに合ったスパイスを調合して脳内でカレーを作る。それを紙に書き出して現実のものにする。
なので、基本試作はしません。

カレー以外の料理も参考にします。イタリアンや中華や和食、なんでも参考になります。例えばトリッパや麻婆豆腐、おでんをカレーにしたらどうなるか。そんなふうに、カレーに置き換えて考えることをいつもやっています。

常に新メニューを考える続けるのは大変ですよね。

そうですね、大変と言えば大変ですが楽しいですよ(笑)食材、季節感に合わせてたり、他のジャンルをカレーにしたり、イメージしたものを商品化する達成感があります。

常連さんを含め来てくれる人に、常に新しいものを表現していきたい、という気持ちがあります。
「あの店にいったら、いつも違うものがある。頼んでみたらうまい」そんな風に思ってもらいたいと思っています。

来てくれるお客さんのことを第一に考える

お店を運営する上で、1番心がけているのは何ですか?

とにかく素早く提供することを心がけています。そのためのオペレーションづくりも常に考えています。オフィス街での昼休みはとにかく時間との戦いです。殆どの方の休憩は1時間程度なので、すぐに食べてもらえるように。正直、常連さんだけど顔だけしか知らないお客さんもたくさんいます。
ただ、カリービトに来てくれるお客さんに「美味しくて体にいい」ものをお出ししたいという信念は変わりません。

今後は何をやりたいですか。

 やりたいことは、いっぱいあります。なかなか具体化できませんが。まずは一人でも多くのお客さんに食べてもらいたいというのが一番の希望です。とはいっても、お店を広げると自分では作れなくなる。私はオーナーシェフとして「一人ですべてこなす」自分ですべて納得してやりたいという気持ちが店を始めた理由です。誰かに託すと、やり方が変わってきてしまう。

複数店舗を出す場合も、同じように厳しいなという思いがあります。
納得するものを作るには、睡眠時間を削り、朝昼晩と立って食事をし、突き詰めないといけない。それは自分の店でないとできないと思います。そこを妥協すると味に出てしまいます。味は変えたくない。自分の店ですから。

とはいっても限界はあるので、土日祝日は休みと決めてやっています。 そんな中、何かできないかとずっと考えていました。なにかいい方法はないか、3年くらい悩んで今回やっと発売することができました。

一度来てくれた人、ネットで画像を見ているだけでまだ食べたことがない人、来たくても平日飯田橋まで来れない人、そういう人に是非食べてほしいと思って作りました。

通販の冷凍カレーの紹介

それでは、通販のカレーの説明をお願いします。

■キーマ

グレービールーの汁気がない、細かい挽肉のキーマが一般的イメージだけど、ドライキーマはあまり好きではないので、シャバシャバ、ごろごろ、で作りました。皆さんのキーマカレーの概念を変えたいですね。
スパイシー、不揃いの肉の食感、ビターな味のイメージです。スパイシーだけど辛すぎないカレーです。

■チキン

フライドオニオンを中心にたっぷりのヨーグルトや香りのハーブ、黒糖を入れたり。完全オリジナルのカレーです。スパイス感が出て、味の深みがあります。フライドオニオンによるタマネギの甘みで、一口食べて「うまい!」と言えるようなカレーです。

■和風バターチキン

日本人が一番好きなカレーです。バターチキンはナンなどと合わせるのが一般的ですが、今回はご飯と合わせて美味しいカレーに仕上げました。カツオ・しいたけを使った出汁をベースにすることで日本人が楽しめるカレーに。しゃばっとしたルーです。

■豆カレー

「咖喱人」のカレーは、どのカレーにも必ず豆カレーがセットで付いてきます。自分自身も豆のカレーがとても好きです。日本人で豆カレーを頼む人は少ないですが、これは損をしていると思います。美味しい豆のカレーを作ったので、ぜひセットで食べてもらいたいです。単体でも美味しいし、他のカレーと混ぜても美味しくなるようにチューニングしています。

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