ノスタルジックだけど、新しい。「私たちの思い出に残るカレー」をつくりたい〜「小さかった女」小助川麻里耶さんインタビュー〜
東急目黒線・西小山駅の商店街を抜けた住宅街の中に「小さかった女」はあります。その独特の店名は、画家でもある店主ご自身の過去の作品タイトルから引用したという。お客さんは若い方から、ご近所にお住まいのご高齢の方まで幅広い。 2014年オープンの店にも関わらず既に数十年営業されてきたかのような、地域に愛されているお店のような懐かしさを感じます。そのノスタルジックな空間とカレーの味わいの原点について店主の小助川さんに伺いました。

カレーとの出会いと小さかった女のオープン

どんな経緯でカレーの道に?

もともと美術、写真を勉強していたのですが、学校に通っているうちに「これでは食べていけないな」と思ったんです。自分で食べていく方法をどうにか見つけなければ。それで30歳までに芽が出なかったら、お店を始めようと思っていました。

なので、学校に行きながら飲食店でバイトをしていました。昼はそば屋、夜はライブハウス。ミツバチというお店で、メニュー開発なども任せて貰えるようになりました。その店の定休日に間借り店舗もやらせてもらっていたのですが、グラタンとたまごサンド、それにソースライスというオリジナルメニューを提供していました。ソースのバリエーションの中に、カレーもありました。

「小さかった女」は2014年にスタートしました。カフェバーで、ギャラリーなども兼ねていました。ですが、ずっとお客様が入らない状況が続いていました。今振り返るとコンセプトが定まっていなかった気がします。メニューをどんどん変えてしまって、スパイスが効いた料理を出したり、フレンチの煮込みを作ったり。ぶれぶれでした。

「このままでは、一生お客さんが付かない」。そう思い、スパイス料理が好評だったので、カレー一本に決めました。それが3年前です。

小さかった女 小助川さん

定番メニュー小山チキンの誕生

西小山にお店を出したのは、どういう経緯からですか。

もともと自由が丘で働いていのですが、家賃が高いんです。そこから近い場所で、たまたま条件が合ったのが西小山でした。商店街に店を出すと、お店が商店街の色に染まってしまう。なので、ちょっと離れた住宅街の物件をあえて選びました。

定番メニューの「小山チキン」は、どのように生まれたのですか?

「小山チキン」は、スパイスがジャリジャリと効いていて、グレービーソースで、具はチキンで、油がほんのり浮いていて——そんなイメージを思い浮かべながらパッションで作りました。「スパイスを並べて匂いを嗅ぎながら、とにかく作ってみよう、それ一発で行こう」と思って作りました。

大鍋で作れるレシピではありません。なので、結構手間がかかります。今は夜の営業をしていないのですが、朝10時に出勤してランチで閉じて、それから夜11時まで仕込みをしていたりします。

才能あるカレー屋の方って、いつも日替わりや週替りで新しいメニューを作っていると思うのですが、自分は一つの商品をがっちり作らないと気が済まない。いつ来ても変わらない味をお出ししたい。季節によって、たまに新メニューを出したりもしますが、どちらかというと、いつお店に来ても同じ味を楽しめる老舗のカレー屋みたいになりたいですね。

小山チキン

「思い出に残るカレー」を作りたい

スパイスカレーブームについてどう見ていますか?

週替り日替わりでいろいろなメニューを毎回作るお店はすごいなと思います。でも日々違うカレーを作るセンスは自分にはないので、じっくり腰を据えて、トライ・アンド・エラーをしながら作っていきたいです。美味しいカレー、面白いカレーはいろいろあるけど、私は長く残るカレー、思い出に残るカレーを作っていきたいと思います。スパイスカレーと欧風の要素のハイブリッドで、老舗の「中村屋」や「ボンディ」みたいな店になりたいですね。

「思い出に残るカレー」とは面白い考え方ですね。どこからその発想が?

小さな子供の頃に、資生堂パーラーや不二家レストランに連れて行ってもらうと嬉しかったのを覚えています。そんな思い出に残るようなお店にしたいんです。

今、西小山で2店舗目の出店を計画しています。「子供時代に家族みんなでお買い物をして、その後ここでご飯を食べることが定番だった」と後になってから思い出してもらえるようにしたいんです。家族で楽しめる、クラシックな感じのお店に、カフェの要素も入れて。

今の店舗はコーヒーとカレーですが、次は、カレーとミルクセーキとか、カレーとチーズケーキとか、別の組み合わせも試してみたいですね。どの店舗に行っても新しいマリアージュがある、そんな店にしていきたいと思っています。

新しいものを知ると、もっともっと知りたくなるし、どんどん試したくなります。今は、チーズケーキのレシピを極めるのが好きです。極めたもの同士を出していきたいですね。

自分にはフットワークの軽さみたいなものはありませんが、一つのことを極めようとすることが長所だと思っています。

小さかった女

新しいアイデアはどこから取ってきますか?

情報が大好きで、寝ている時以外は常に何かを考えています。画像、動画、文字情報、あらゆる方法でいろいろなインプットを集めています。いろいろな野草を集めて、花束にする感じです。

調味料も自分で作るんですが、フレンチの技法を使ってみたりします。調べて、試して、仕組み化するんです。

低温調理についても極めてみたいですね。温度管理をどうやると、タンパク質がどう変わるか。それをどう再現可能にするか。

そんな事をいつも考えています。

アートとカレーはつながりますか?

油絵をやっていたんですが、影響を受けたアーティストに共感する哲学や手法を抽出し、作品にアウトプットしてきました。カレーづくりはそれと似ているかもしれません。

出身地の小樽の世界観を届けたい

小樽出身と聞きました。

小樽は運河や洋館があって、欧風な雰囲気が好きです。あの欧風の感じを東京でもやりたいですね。

今のお店は西小山に合わせた雰囲気の店ですが、次の店は小樽の世界観を西小山に持ち込んだ店にしたいです。

小樽の世界観って、どんなものですか?

ノスタルジック、郷愁、孤独、だけどワクワクする感じ。そんなイメージです。

例えば、恋人に振られた時って、なんだか悲しいんだけど、それと同時に、またワクワクする新しい出会いがあるだろうと思える。一人でも世の中は楽しいかも、そう思える瞬間があります。

吉田篤弘の「つむじ風食堂の夜」という小説が好きで、そこに登場するようなお店を作りたいです。小説にはクロケット定食を出す食堂が登場しますが、小樽の街にはそんなノスタルジックな雰囲気があります。

今のお店は、アート、CD、コミック、小説、思想書などが、雑多なようでありつつも秩序を保って並べてありますね。

本は全部、自分の部屋から持ってきました。格好をつけず素の状態を見せることが素敵だと思います。入り口すぐ右の本棚が一番好きです。

本のセレクトは、私の人生の一部です。その本は半分しか読んでないよ、なんていうのもありますけれど。純文学系が好きな時代から、エログロナンセンスにはまった時代もあったり、そうした”ぶれ”も含めて一つの人生だと思っています。

小さかった女

通販のカレーについて教えてください。

通販は、自分もずっとやりたかったんです。今回、その機会ができて本当に嬉しいと思っています。

今回通販するカレーは、店に来られない方も、よく来る方も、楽しんで頂けるカレーです。似ているけど、なにか違うと思ってもらえる、そんなカレーです。店では食べられない限定カレーなので、ぜひ皆さんに食べてもらいたいです。

トッピングには、たけのこのマリネや、メンマとかも合うかもしれません。食べるラー油を足してもいいと思います。楽しんでいただければと思います。

 

小さかった女のカレーの購入はこちら

小さかった女